映画が好きで、特に心を揺さぶるヒューマンドラマに惹かれる僕にとって、『Coda コーダ あいのうた』(2021)とその原作であるフランス映画『エール!』(2014)は特別な存在です。どちらも聴覚障害を持つ家族の中で唯一耳が聞こえる少女が主人公で、彼女の夢と家族愛が描かれる物語。『Coda』は『エール!』のリメイク作品として生まれ、アカデミー賞を受賞するなど大きな注目を集めました。一方、オリジナルである『エール!』もフランスらしいユーモアと温かさで多くの観客を魅了しています。今回はこの2作品を見比べて感じたこと、それぞれの魅力や違いについて綴りたいと思います。
『Coda コーダ あいのうた』:ハリウッドらしい感動の仕掛け
まず、『Coda コーダ あいのうた』から。舞台はアメリカ、マサチューセッツ州の海辺の町グロスター。主人公のルビー・ロッシ(エミリア・ジョーンズ)は、聴覚障害を持つ両親と兄レオとともに漁業を営む家族の中で、唯一耳が聞こえる「コーダ」(Children of Deaf Adultsの略)。彼女は幼い頃から家族の「耳」として通訳を務め、漁業の手伝いも欠かさない日々を送っています。そんなルビーが高校の合唱クラブで歌の才能を見出され、名門バークリー音楽大学を目指す夢を抱くことから物語が動き出します。
この映画の最大の魅力は、やはり音楽と感情が一体となった演出でしょう。特に印象的なのは、ルビーが家族のために手話を交えてジョニ・ミッチェルの「Both Sides Now」を歌うシーン。聴こえない両親に自分の歌声を届けたいという想いが、手話という形で表現される瞬間は涙なしには見られません。監督のシアン・ヘダーは、実際に聴覚障害を持つ俳優(マーリー・マトリン、トロイ・コッツァー、ダニエル・デュラント)を起用し、アメリカ手話(ASL)を物語に自然に織り込むことで、リアルさと深みを加えています。特にトロイ・コッツァーが演じる父フランクが、ルビーの歌を「感じる」ために彼女の喉に手を当てる場面は、言葉を超えた愛情が伝わってきて胸が熱くなりました。
また、ハリウッドらしいコメディ要素も見逃せません。両親がセックスにオープンすぎてルビーが恥ずかしがるシーンや、家族のユーモラスなやりとりが随所に散りばめられていて、笑いと涙のバランスが絶妙。終盤、ルビーが自分の夢を追いながらも家族との絆を再確認する展開は、観る者の心に希望を残します。2022年のアカデミー賞で作品賞を含む3部門を受賞したのも納得の完成度です。
『エール!』:フランスらしい軽やかさと人間味
一方、オリジナル作品『エール!』は、フランスの田舎町を舞台にした物語。主人公ポーラ・ベリエ(ルアンヌ・エメラ)は、聴覚障害を持つ両親と弟とともに酪農を営む家族の中で唯一の健聴者。彼女もまた家族の通訳として忙しく働いていますが、学校の合唱団で歌の才能を発見され、パリでの音楽の道を夢見るようになります。
『エール!』の魅力は、フランス映画らしい軽やかなタッチと人間味あふれるキャラクター描写にあると思います。『Coda』と比べるとストーリーはシンプルで直球。ポーラの両親はチーズ作りや農業に励む素朴な人々で、ユーモアと愛情がたっぷり。特に父が町長選挙に出馬するというユニークなサブプロットは、家族の絆をコミカルに描きつつ、彼らの自立心を示していて面白いです。また、フランスならではの性に対するオープンさも特徴的で、両親の奔放な振る舞いやポーラの恋愛がストレートに描かれています。このあたりは『Coda』でややマイルドに調整された部分でもあり、文化の違いを感じさせます。
音楽面では、シャンソンを中心とした選曲が心に響きます。特にクライマックスの合唱発表会で、ポーラが歌うシーンが途中で無音になり、聴覚障害者の視点が映し出される演出は秀逸。『Coda』でも似た手法が使われていますが、『エール!』では耳鳴りのような「ウワーン」という音を加えることで、聴こえない家族の切なさをより鮮烈に伝えています。ポーラ役のルアンヌ・エメラの歌声は素朴で伸びやかで、彼女の純粋さがそのまま表れているようでした。
二つの映画の違い:視点とアプローチ
『Coda』と『エール!』を比べると、設定やテーマは似ていても、アプローチや視点に明確な違いがあります。まず舞台設定。『Coda』は漁業、『エール!』は酪農と、家族の生業が異なります。これにより、ルビーは海の広大さに自分の未来を重ね、ポーラは田舎の閉鎖的な環境からの脱出を夢見るという、それぞれの心情が視覚的に表現されています。また、家族構成も異なり、『Coda』では兄レオが登場するのに対し、『エール!』では弟がいる。この変更により、『Coda』では兄との関係性や家族の自立が強調され、『エール!』では弟を交えた家族の日常がよりコミカルに描かれています。
キャスティングも大きな違いです。『エール!』では聴覚障害者の役を健聴者が演じたことが一部で批判されましたが、『Coda』では実際に聴覚障害を持つ俳優を起用し、リアルさを追求。この選択が、映画の感動をより深いものにしたと言えるでしょう。さらに、『Coda』は主人公の年齢を高校生に引き上げ、進学というテーマを明確にすることで、観客の共感性を高めています。一方、『エール!』は中学生のポーラを描き、初恋や性の目覚めなど、思春期らしい揺れが強調されています。
演出面では、『Coda』がハリウッドらしい洗練された仕掛けで涙を誘うのに対し、『エール!』はストレートで飾らない感情表現が際立ちます。例えば、ルビーのオーディションシーンは手話と歌が融合した感動的なクライマックスですが、ポーラの発表会シーンは無音演出で静かに涙を誘う。どちらも素晴らしいですが、私は『エール!』の素朴さが個人的に心に刺さりました。
どちらも響く普遍的なテーマ
両作品に共通するのは、家族愛と自己実現という普遍的なテーマです。ルビーもポーラも、家族を支える責任感と自分の夢との間で葛藤します。聴こえない両親にとって、娘の歌の素晴らしさは理解しづらいもの。それでも、彼女たちの才能と情熱を認め、背中を押す家族の姿に心打たれます。特に『Coda』のラストで、ルビーが車で旅立つ際に家族が手話で「愛してる」と送り出すシーンは、二つの映画のエッセンスが凝縮されているようで、涙が止まりませんでした。
結論:見比べて楽しむのがおすすめ
『Coda コーダ あいのうた』と『エール!』、どちらも素晴らしい映画ですが、それぞれの良さがあります。『Coda』は洗練された演出とリアルなキャスティングで感動を届け、『エール!』はフランスらしい軽やかさと人間味で心を温めてくれます。私は先に『Coda』を見て、その後『エール!』を鑑賞しましたが、両方を見比べることで、リメイクの工夫やオリジナルの魅力がより深く理解できました。
もしあなたが家族や夢について考えたいとき、または音楽が持つ力に癒されたいとき、この2作品をぜひ観てみてください。どちらか一方でも十分楽しめますが、時間があれば両方を。きっと心に残る「愛の歌」が聞こえてくるはずです。
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