Amazon Prime Videoで2024年05月24日(金)公開の『関心領域』が2月28日から配信されたので鑑賞しました。残念ながら吹替え版しか配信されていませんでしたが、見終わって、いろいろ考えさせられる点がありましたので記事にしてみました。
映画『関心領域』(原題:The Zone of Interest)は、2023年に公開され、ジョナサン・グレイザー監督による衝撃的な作品です。この映画は、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞し、批評家や観客から高い評価を受けました。原作はマーティン・エイミスの同名小説に着想を得ており、第二次世界大戦中のアウシュヴィッツ強制収容所のすぐそばで暮らすナチス将校一家の日常を描いています。しかし、この映画が他のホロコースト映画と一線を画すのは、収容所の内側を直接的に描写しない点です。代わりに、壁の向こうで起きている恐怖を間接的に示し、人間の無関心や日常性の中に潜む闇を浮き彫りにします。
あらすじと舞台設定
物語の中心は、アウシュヴィッツ収容所の所長であるルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とその妻ヘートヴィヒ(サンドラ・ヒュラー)、そして彼らの家族です。彼らは収容所のすぐ隣に建てられた快適な家で、庭を整備し、子供たちを育て、穏やかな日常生活を送っています。ヘートヴィヒは花壇の手入れに励み、ルドルフは「仕事」として収容所の運営に携わる。一見すると、彼らはどこにでもいる平凡な家族に見えます。しかし、家の外では煙突から煙が立ち上り、叫び声や銃声が遠く聞こえ、壁の向こうで想像を絶する惨劇が進行しています。
映画は、このギャップを意図的に強調します。カメラは決して収容所の中を映しませんが、音響や視覚的なヒントを通じて、その存在を観客に常に意識させます。例えば、煙突から立ち上る灰が庭に降り注ぎ、ヘートヴィヒがそれを無視して花を摘むシーンは、日常と非日常が交錯する不気味さを象徴しています。
テーマ:無関心と共犯性
『関心領域』の核心は、人間がどれだけ恐ろしい現実を無視し、受け入れ、さらにはその一部として生きることができるのかという問いです。ヘス一家は、収容所の運営に直接関与しながらも、自分たちの生活を「普通」とみなします。ヘートヴィヒは夫の「仕事」を誇りに思い、収容所から持ち帰った毛皮や口紅を喜んで使う。子供たちは庭で遊び、夜には家族で食卓を囲む。この日常性こそが、映画の最も恐ろしい要素です。
グレイザー監督はインタビューで、「この映画は過去の話ではなく、現代の我々にも関わる物語だ」と語っています。確かに、ホロコーストは歴史的な出来事ですが、無関心や共犯性は現代社会にも存在します。例えば、環境破壊や貧困、戦争といった問題を目の当たりにしながら、私たちはどれだけ「自分の生活」を優先してしまうでしょうか。『関心領域』は、そんな自己反省を促す鏡のような作品です。
演出と技術:静寂の中の緊張感
この映画のもう一つの特徴は、そのミニマリスティックな演出です。映像は抑制されており、過剰なドラマや感情的な音楽は一切使われません。代わりに、ミカ・レヴィによる不協和音のスコアと、環境音(銃声、叫び声、列車の音)が緊張感を高めます。特に音響デザインは秀逸で、観客に「見えない恐怖」を強く印象づけます。画面に映らないものが、むしろ想像力を刺激し、心に残るのです。
撮影は実際のアウシュヴィッツ近郊で行われ、ヘス一家が暮らした家を忠実に再現しています。カメラは固定ショットが多く、まるで観客がその場に居合わせているかのような感覚を与えます。この距離感のある視点が、登場人物の冷淡さと観客の無力感を際立たせます。
印象に残るシーンと解釈
個人的に最も印象に残ったのは、ヘートヴィヒが母親を家に招き、自慢げに庭や家を見せるシーンです。母親は遠くの煙突を見て「何か変だ」とつぶやきますが、ヘートヴィヒは笑顔で話題をそらします。この瞬間、彼女の無関心と自己正当化が露わになります。また、ルドルフが夜間に収容所を見下ろすシーンでは、サーマルカメラのような映像が挿入され、彼の冷徹な視線が強調されます。これらの場面は、日常と異常が共存する不条理さを象徴しています。
映画のラストも議論を呼ぶポイントです。現代のアウシュヴィッツ記念館が映し出され、過去と現在が繋がります。これは、歴史を忘れず、教訓として受け継ぐことの重要性を示唆しているのでしょう。私はこの結末を、単なる過去の再現ではなく、現代への警鐘と解釈しました。
感想:見る者の心を試す作品
『関心領域』を見終わった後、私は深い沈黙に包まれました。この映画は感情を直接揺さぶるタイプの作品ではありません。むしろ、観客に考えることを強いるのです。私はヘス一家の無関心に苛立ちを覚えつつ、自分自身にも同じような傾向がないか自問しました。例えば、ニュースで遠くの戦争や災害を見ても、「自分には関係ない」と切り捨ててしまう瞬間はないだろうかと。
サンドラ・ヒュラーの演技も素晴らしく、彼女はヘートヴィヒの冷酷さと母性を見事に両立させています。クリスティアン・フリーデルもまた、ルドルフの機械的な冷静さを自然に表現しており、彼らの「普通さ」が逆に不気味です。この映画は、登場人物を怪物として描かず、あくまで「人間」として提示することで、観客に深い不安を与えます。
現代における意義
2025年の今、この映画が持つ意味はさらに大きいと感じます。世界では分断が進み、SNSやメディアを通じて遠くの悲劇を知りながらも、多くの人が無関心を貫いています。『関関心領域』は、そんな私たちに「あなたはどう生きるのか」と問いかけます。歴史的な出来事を題材にしながらも、これは普遍的な人間性の物語であり、時代を超えて響くメッセージを持っています。
まとめ
『関心領域』は、ホロコーストを扱った映画の中でも異色であり、観る者に強い印象を残す作品です。直接的な暴力や悲劇を描かずとも、音や空気を通じてその存在を感じさせる手法は、まさに芸術的です。私はこの映画を、単なる娯楽ではなく、自分自身を見つめ直すきっかけとして強くお勧めします。もしあなたが静かな恐怖と深い思索を求めるなら、ぜひブルーレイ&DVDか配信で体験してほしい一作です。





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