NHK大河「べらぼう」に登場する平賀源内を主役とした「天下御免」という痛快時代劇ドラマを知っていますか?

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2025年NHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」に登場する安田顕演じる平賀源内。主人公の横浜流星演じる蔦屋重三郎を助ける脇役的存在ですが、今から54年前同じNHKで放送されていた時代劇ドラマ「天下御免」では、堂々の主人公でした。今回は「天下御免」を紹介したいと思います。

1971年10月8日から1972年9月29日まで、NHK総合テレビで毎週金曜20時に放送された時代劇「天下御免」。このドラマは、江戸時代の実在の人物である発明家・平賀源内を主人公に据え、彼が難事件や社会問題を解決していく姿を描いた「痛快時代劇」です。脚本家の早坂暁が手がけたこの作品は、時代劇の枠を超えた斬新な演出と現代的な社会風刺で視聴者を魅了し、平均視聴率約30%という驚異的な人気を博しました。全46話にわたり1年間放送されたこのドラマは、昭和のテレビ史に燦然と輝く名作として今なお語り継がれています。しかし、残念ながら映像の多くが失われ、現存するのは主演の山口崇が個人的に録画していた第1話と最終回の一部のみ。この「幻のドラマ」の魅力を、今回はたっぷりと紐解いていきましょう。

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「天下御免」の概要と歴史的背景

「天下御免」は、享保年間から田沼意次が老中として権勢を振るった時代(18世紀中盤)を舞台にしています。平賀源内(1728-1779)は、歴史上ではエレキテル(電気発生装置)の復元や鉱山開発、博物学など多岐にわたる業績で知られる天才発明家であり、蘭学者です。彼は「早く生まれすぎた天才」と称され、江戸時代の科学技術や文化に大きな影響を与えました。しかし、その破天荒な性格と型破りな行動ゆえに、最後は殺傷事件を起こして獄死するという悲劇的な結末を迎えています。

「平賀鳩渓肖像」。木村黙老著『戯作者考補遺』の写本 Wikipediaより

ドラマでは、この平賀源内を山口崇が演じ、彼を取り巻く仲間たちとともにユーモアと知恵を駆使して事件を解決していきます。主要キャストには、剣豪・小野右京之介役の林隆三、盗賊・稲葉小僧役の津坂匡章(現・秋野太作)、紅役の中野良子らが名を連ね、当時ほぼ無名の若手俳優たちが起用されました。音楽は山本直純が担当し、軽快で印象的なテーマ曲がドラマの雰囲気を盛り上げました。また、ナレーションは水前寺清子が務め、最終回では「水前寺清太夫」として出演するサプライズも話題に。タイトルバックのイラストは黒鉄ヒロシが手がけ、視覚的にも独特の個性を放っていました。

時代劇の枠を超えた斬新な演出

「天下御免」の最大の特徴は、時代劇らしからぬ破天荒な演出です。たとえば、第6話では源内一行が長崎から江戸に到着したシーンで、突然現代の東京・銀座の歩行者天国にワープ。ちょんまげ姿の源内が人混みの中を闊歩し、昭和の街が大混乱に陥る場面は、当時の視聴者に衝撃を与えました。他にも、新幹線が登場したり、映像を早送りして伝言ゲームを表現したりと、時代考証を完全に無視した遊び心が満載。さらに、当時の東京都知事・美濃部亮吉が背広姿でゲスト出演し、公害問題について語るという奇抜なシーンも。これらの演出は、チーフディレクターの岡崎栄が「平賀源内という破天荒な人物を描くなら、ドラマも型破りでなければ」と果敢に挑戦した結果です。

この奔放さは、脚本家・早坂暁のユーモアと機知に富んだ筆致とも相まって、視聴者に新鮮な驚きと笑いを提供しました。早坂は当初メイン脚本家ではなく、橋田壽賀子や佐々木守が企画段階で関わっていましたが、最終的に彼が全話の中心を担うことに。結果として、「天下御免」は「カツラをつけた現代劇」とも称される独自のスタイルを確立し、従来の堅苦しい時代劇とは一線を画す存在となりました。

社会風刺と現代へのメッセージ

「天下御免」が単なる娯楽に留まらなかった理由は、その鋭い社会風刺にあります。ドラマは、江戸時代の設定を借りつつ、1970年代の日本が直面していた現実の問題を巧みに織り交ぜました。たとえば、江戸のごみ問題は現代の廃棄物処理難を、鉛公害は工業化による環境汚染を、受験戦争は教育競争の激化を風刺しています。さらに、田中角栄内閣への批判や人種差別問題まで取り上げ、当時の社会に対する痛烈なメッセージを投げかけました。

特に印象的なのは、黒人の脱走奴隷と出会うエピソード。稲葉小僧がその黒い肌を見て「お、しのびの色だね」と軽口を叩くシーンは、差別を笑いものにするのではなく、むしろ人間的な温かみと共感を示すものでした。このようなエピソードは、当時の日本社会に潜む偏見や不平等に一石を投じるもので、視聴者に深い思索を促したのです。

最終回では、源内が獄死したと見せかけて気球で国外へ脱出するというフィクションが描かれます。これは史実とは異なるものの、自由を求める源内の精神を象徴する結末として、多くの視聴者の心に残りました。現実の源内は悲劇的な最期を迎えただけに、このドラマチックな解放感は「天下御免」ならではの魅力と言えるでしょう。

影響と遺産

「天下御免」は、その斬新さと自由さで後世のクリエイターに大きな影響を与えました。たとえば、脚本家の三谷幸喜は、「天下御免」に感動して脚本家を目指したと公言しています。彼は後にNHKで「風雲児たち~蘭学革命篇~」(2018年)を手がけ、源内や杉田玄白といった人物を再び描き出しました。また、三谷の代表作である大河ドラマにも、「天下御免」のユーモアや型破りな精神がどこか反映されていると感じるファンも多いです。他にも、松尾スズキや中島かずきといった劇作家がこのドラマからインスピレーションを受けたと言われています。

視聴者にとっても、「天下御免」は特別な存在でした。X(旧Twitter)での投稿を見ると、「毎回ワクワクしながら見た」「山口崇の源内がカッコ良かった」「勉強になった」との声が今なお寄せられています。放送当時小学生だった世代からは、「自由の風を感じた」と懐かしむ声も。このドラマが与えた「自由さ」と「知的好奇心」は、時代を超えて共感を呼んでいるのです。

映像の喪失と再評価への願い

しかし、「天下御免」の悲しい現実として、ほとんどの映像が失われていることが挙げられます。NHKにはテープが残っておらず、現存するのは山口崇が私的に録画していた第1話と最終回の一部のみ。これらはNHKアーカイブスで公開されていますが、全46話の全貌を知ることは困難です。シナリオ集として出版された『早坂暁コレクション』(勉誠出版)は入手可能ですが、映像の不在はファンにとって大きな痛手です。

視聴者からは映像のDVD化を求める声が根強く、過去には署名運動も行われました。もし誰かが当時の録画を持っていれば、ぜひNHKに提供してほしい――そんな切なる願いが今も続いています。令和の時代に、「天下御免」が再放送やリメイクで甦れば、新たな世代にもその魅力が伝わることでしょう。たとえば、三谷幸喜が提案する「堺雅人主演の令和版『天下御免』」なんて夢物語も、実現すれば話題をさらうこと間違いなしです。

おわりに

「天下御免」は、平賀源内という「早く生まれすぎた天才」を通して、時代劇の常識を打ち破り、社会への鋭い視線とユーモアを融合させた稀有な作品です。1971年の放送から50年以上が経ち、多くの映像が失われた今でも、その精神は色褪せません。江戸と昭和、そして令和をつなぐこのドラマは、まさに「不滅の金字塔」。もし源内が現代に生きていたら、政治とカネ、環境問題、マイナンバーなど、どんなテーマを斬ってくれるのか。早坂暁の言葉を噛みしめつつ、そんな想像を膨らませるのもまた楽しいものです。

あなたは「天下御免」を知っていますか? もし知らなくても、この記事を通じてその自由な風を感じていただければ幸いです。そして、いつか全話が甦る日を、共に夢見ましょう。

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