2024年11月1日、山田孝之主演の時代劇『十一人の賊軍』が公開されます。
旧幕府軍と新政府軍の戦いが激しさを増した明治元年(1968年)。
旧幕府軍にくみする奥羽越列藩同盟軍を裏切った新発田藩は、捕らえていた11人の罪人に砦を守らせる。しかし、自由と夢を賭け、11人の罪人たちは反旗を翻し、新政府軍vs旧幕府軍vs11人の罪人の三つ巴の戦いが始まる。
本作は60年代に時代劇の復活をかけ製作された集団抗争時代劇作品群の流れをくむ久しぶりのチャンバラ時代劇です。
集団抗争時代劇とは
「集団抗争時代劇」とは一人のヒーローが活躍するのではなく、複数のキャラクターが協力して、困難に立ち向かうという設定の時代劇ジャンルです。
単にアクションシーンの連続ではなく、登場人物たちの間の複雑な人間関係や、彼らの内面的な葛藤を描くことにも重点を置いています。これにより、観客は単なる戦い以上のドラマを体験することができるのです。さらに、これらの作品は、時代劇が持つノスタルジーやヒロイズムを剥ぎ取り、よりリアルで生々しい人間ドラマを描出しようと試みています。
「集団抗争時代劇」が製作された期間はおおむね1963年頃から1967年頃までの4~5年間とされています。
このジャンルの代表作として、『十七人の忍者』(1963年)、『十三人の刺客』(1963年)、『十一人の侍』(1967年)、『大殺陣』(1964年)などがあります。
今回は工藤栄一監督が製作した集団抗争時代劇3作品を紹介します。
集団抗争時代劇工藤栄一監督3作品
工藤栄一監督は、昭和時代中期から平成時代中期にかけて活躍した日本の映画監督で、1929年7月17日に北海道苫小牧市で生まれました。彼は慶應義塾大学を卒業後、1952年に東映に入社し、映画監督としてのキャリアをスタートさせました。工藤監督は特に時代劇で知られ、1963年の「十三人の刺客」で監督賞を受賞するなど、その作品は高く評価されています。彼の映画は、緻密なプロットと鮮やかなアクションシーンで観客を魅了し、日本映画の黄金時代を彩りました。また、テレビドラマにも進出し、「必殺」シリーズなどの人気作品で演出を手がけ、幅広いジャンルで才能を発揮しました。工藤監督は、映画だけでなくテレビドラマでも革新的な手法を取り入れ、日本のエンターテインメント業界に多大な貢献をしました。2000年9月23日に脳幹出血で亡くなるまで、彼は映画とテレビの世界で活躍し続け、多くの作品を残しました。
『十三人の刺客』1963年
1963年製作/125分/日本
原題:Thirteen Assassins
配給:東映
劇場公開日:1963年12月7日
この映画は、弘化元年(1844年)に起こった暗殺計画を描いており、時代劇映画史上最長とされる約30分に及ぶ殺陣シーンが特徴です。映画は、東映京都撮影所によって製作され、片岡千恵蔵、里見浩太郎、丹波哲郎などの当時の一流俳優が出演しています。
物語の中心は、将軍徳川家慶の異母弟である明石藩主・松平斉韶の暴虐ぶりを訴えた直訴状が残された事件から始まります。筆頭老中・土井大炊頭は、斉韶を排除するために目付・島田新左衛門に暗殺部隊の結成を命じます。新左衛門は、甥である島田新六郎や徒目付組頭の倉永左平太など12人を集め、計画を進めていきます。彼らは美濃国の落合宿を決戦の場所と定め、斉韶一行との壮絶な戦いに挑みます。
この映画は、平和な時代に人を斬ったことのない侍が刀を持った時の殺陣を表現するために、1対1の対決を極力避け、集団戦をメインに据えています。撮影にあたっては、殺陣師が殺陣の指導を行い、リアリティのある戦闘シーンが展開されます。また、映画のテーマである「平和な時代に人を斬ったことのない侍が刀を持った時の殺陣」を表現するために、集団戦をメインに据えている点が特筆されます。
工藤栄一監督は、この作品で時代劇に新境地を開いたと言われており、リアルな肉弾戦を描いたことで高い評価を受けています。『十三人の刺客』は、時代劇の新しいアクション時代劇を作り、「チャンバラ」と呼ばれた東映の様式的な時代劇に新しい風を吹き込んだ作品として、今なお多くの映画ファンに愛され続けています。
この映画は、その後2010年に三池崇史監督によってリメイクされ、新たなファン層を獲得しました。しかし、オリジナル版の持つ独特の雰囲気と歴史的背景は、リメイク版とは一線を画しており、日本映画史における重要な作品としてその地位を確立しています。工藤栄一監督の『十三人の刺客』は、時代劇ファンはもちろん、映画史を学ぶ上でも欠かせない一作であると言えるでしょう。
『大殺陣』1964年
1964年製作/119分/日本
原題:The Great Duel
配給:東映
劇場公開日:1964年6月3日
この映画は、実録タッチの作風で「集団抗争時代劇」と称され、徳川綱重の暗殺を決意した軍学者・山鹿素行とその協力者たちの破滅を描いています。徳川綱重の死因が謎であることにヒントを得たオリジナルストーリーで、延宝6年(1678年)の政治的背景を基にしています。
『大殺陣』は、工藤栄一監督と池上金男脚本家のコラボレーションによる作品で、そのリアリズムとドラマチックな展開は、当時としては斬新なアプローチでした。映画はモノクロで撮影され、そのビジュアルスタイルは、時代劇の伝統的な美学と現代的な演出技法の融合を示しています。主演は里見浩太郎で、彼の演技はこの映画の成功に大きく寄与しました。
この映画は、その後の時代劇に影響を与え、日本映画史において重要な位置を占めています。『大殺陣』は、政治的陰謀、忠義と裏切り、そして壮絶なアクションシーンを通じて、人間の葛藤と歴史の流れを描き出しており、多くの映画愛好家や批評家から高い評価を受けています。
工藤栄一監督の手腕と映画の芸術的な価値は、今日でも多くの人々に語り継がれており、『大殺陣』は日本の時代劇映画の中でも特に記憶に残る作品となっています。映画の詳細な分析やその文化的意義については、さらなる研究と議論の余地がありますが、この映画が日本映画の金字塔の一つであることは間違いありません。興味深いのは、この映画が時代を超えて多様な観客層にアピールし続けている点で、その普遍的なテーマと魅力的な物語が、今後も映画ファンを引きつけるでしょう。
『十一人の侍』1967年
1967年製作/100分/日本
原題:Eleven Samurai
配給:東映
劇場公開日:1967年12月16日
この映画は、東映京都撮影所が製作し、東映が配給を行いました。モノクロの時代劇であり、「集団抗争時代劇」として知られています。物語は、天保10年(1839年)に設定されており、館林藩主で将軍の弟・松平斉厚による身勝手な振る舞いをたしなめた忍藩主・阿部正由が、その場で斉厚に弓矢で射殺される事件から始まります。この事件をきっかけに、忍藩次席家老・榊原帯刀が主君の仇を討つため、暗殺隊を組織します。物語は、榊原と親友である番頭・仙石隼人を中心に展開し、忍藩士たちの義憤、忠義、そして暗殺計画の遂行を描いています。
映画は、実在の人物と史実を基にしながらも、創作された要素を多く含んでおり、ドラマチックな展開が特徴です。例えば、映画に登場する松平斉厚や阿部正由、水野越前守忠邦は実在の人物ですが、映画の設定は史実とは異なります。実際には、阿部正由が死亡したのは文化5年(1808年)であり、映画の設定年である天保10年(1839年)ではありません。また、映画では斉厚が将軍の弟とされていますが、史実ではそうではありません。
この映画は、日本映画史において重要な位置を占める作品の一つとして、今なお多くの映画ファンに親しまれています。工藤監督の独特な演出スタイルと、時代劇としての深い洞察が光る『十一人の侍』は、日本の映画文化を語る上で欠かせない作品です。
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