2024年2月23日、日本全国の映画館で公開された『マダム・ウェブ』が、2025年3月1日からAmazon Prime Videoで見放題配信されました。
『マダム・ウェブ』は、ソニー・ピクチャーズが贈るマーベル映画の最新作として大きな注目を集めました。原作コミックに登場するキャラクター「マダム・ウェブ」を主人公に据え、「マーベル初の本格ミステリー・サスペンス」と銘打って公開されたこの映画は、スパイダーマン関連のスピンオフ作品群「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)」の第4弾にあたります。しかし、公開後には賛否両論が巻き起こり、その評価は極端に分かれる結果となりました。今回は、この映画の魅力と課題、そしてその背景について深掘りしてみたいと思います。
映画の概要と背景
『マダム・ウェブ』は、監督S・J・クラークソンが手がけた作品で、主演には『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』で知られるダコタ・ジョンソンを迎えています。共演者には『ユーフォリア』のシドニー・スウィーニー、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』のセレステ・オコナー、『トランスフォーマー/最後の騎士王』のイザベラ・メルセド、そして『モーリタニアン』のタハール・ラヒムといった豪華キャストが名を連ねます。製作費は約8000万ドル(約100億円)と言われ、ソニー・ピクチャーズがスパイダーマン関連のキャラクターをさらに掘り下げる意欲作として期待されていました。
原作コミックにおいて、マダム・ウェブ(本名カサンドラ・“キャシー”・ウェブ)は、スパイダーマンを未来予知やテレパシーでサポートする重要な脇役として知られています。通常は年老いた姿で描かれ、盲目かつ身体が不自由ながら、知性と精神的な力を武器に活躍するキャラクターです。しかし、本作ではその「若かりし頃」を描くオリジンストーリーとして設定されており、これが従来のイメージとの大きな違いとなっています。

ストーリーのあらすじ
物語は2003年のニューヨークを舞台に展開します。主人公キャシー・ウェブは、救命士として日々命を救うために奮闘する孤独な女性です。ある日、任務中に生死を彷徨う大事故に遭遇した彼女は、その日から未来を予知する能力に目覚めます。最初は戸惑いながらも、キャシーはこの能力が単に未来を見るだけでなく、自分の行動で未来を変えられる可能性を持つことに気づきます。
そんな中、彼女は偶然出会った3人の少女——ジュリア・コーンウォール(シドニー・スウィーニー)、アーニャ・コラソン(イザベラ・メルセド)、マティ・フランクリン(セレステ・オコナー)——が、黒いスーツとマスクに身を包んだ謎の男、エゼキエル・シムズ(タハール・ラヒム)に殺される未来を予知します。エゼキエルはキャシーと同じく未来予知の能力を持ち、少女たちが将来スパイダーウーマンとして覚醒し、自分を殺す運命を回避しようと彼女たちを追います。キャシーは少女たちを守るため、エゼキエルと対峙しながら、自身の出生の秘密や運命に迫っていきます。
物語の終盤、キャシーは少女たちを救うために自らの命を懸けた戦いに挑み、最終的には視力と身体の自由を失う代償を払いながらも、マダム・ウェブとしての覚醒を果たします。この結末は、原作における彼女の姿へのつながりを示唆するものでした。
キャラクターとキャストの魅力
本作の最大の魅力の一つは、個性豊かなキャスト陣です。ダコタ・ジョンソンは、孤独で感情を内に秘めたキャシーを繊細に演じ、彼女が能力に戸惑いながらも成長していく過程を丁寧に表現しています。特に、予知能力が不完全で制御できない状況での葛藤は、観客に共感を呼び起こします。一方で、アクションシーンでの彼女の動きはややぎこちなく、アメコミヒーローらしい派手さが不足しているとの批判も見られました。
3人の少女を演じるシドニー・スウィーニー、イザベラ・メルセド、セレステ・オコナーも、それぞれ異なる背景を持つキャラクターに生命を吹き込んでいます。特にシドニー・スウィーニーは、ジュリア役で感情豊かな演技を見せ、少女たちとキャシーの間に生まれる「疑似家族」の絆を強調する存在感を発揮しました。しかし、3人のキャラクターの掘り下げが浅く、彼女たちが将来スパイダーウーマンになる伏線も明確に描かれなかったため、観客に十分な印象を残せなかった点は残念です。
敵役のエゼキエルを演じたタハール・ラヒムは、冷酷かつ知的なヴィランとして存在感を示しましたが、彼の動機や背景が十分に描かれなかったことで、単なる「追い詰める存在」に留まってしまった感があります。
テーマと演出の試み
『マダム・ウェブ』が掲げた「マーベル初の本格ミステリー・サスペンス」というコンセプトは、従来のマーベル映画とは一線を画す意欲的なものでした。監督のS・J・クラークソンは、「知性こそがマダム・ウェブのスーパーパワー」と語り、物理的な力ではなく精神的な能力を強調するアプローチを取っています。予知能力を通じて未来を変えようとするキャシーの葛藤や、少女たちとの絆を通じて見えてくる「責任と覚悟」のテーマは、確かにスパイダーマンの「大いなる力には大いなる責任が伴う」に通じるものがあります。
演出面では、キャシーの予知シーンが繰り返し描かれ、同じ出来事が異なる視点や結果で示される手法が取られています。この繰り返しは、サスペンス的な緊張感を生み出す一方で、中盤以降は単調に感じられる部分もありました。また、アクションシーンは控えめで、クライマックスの屋上での戦闘が唯一の見せ場と言えるでしょう。しかし、ここでも低予算感が否めず、映像のクオリティが他のマーベル作品と比べると見劣りするとの声が上がっています。
公開後の評価と賛否両論
『マダム・ウェブ』は、公開直後から批評家と観客の間で大きく意見が分かれました。米国の批評サイト「Rotten Tomatoes」では12%という低評価を記録し、北米興行収入は4000万ドル、世界総興収は1億ドル以下に留まり、製作費を回収できない大赤字となりました。この結果、映画として最低の不名誉とされる「ゴールデンラズベリー賞」を受賞するに至りました。
批判の主なポイントは、「ミステリー・サスペンスと銘打った割にその要素が薄い」「スパイダーマンとの繋がりがほぼ皆無」「脚本や編集の粗さ」「キャラクターの深みの欠如」です。特に、予告編で期待された緊張感や謎解きが本編ではほとんど描かれず、宣伝とのギャップに失望した声が多く聞かれました。主演のダコタ・ジョンソン自身も、製作過程で関係者の介入により作品が変質したことを明かし、「アメコミ映画は二度とやらない」と宣言するなど、内部での混乱も垣間見えます。
一方で、肯定的な意見も存在します。日本の観客の中には「孤独な女性と少女たちの絆に心打たれた」「変化球的なヒーロー誕生譚として新鮮だった」と評価する声もあり、派手なアクションを求めない層には一定の支持を得ました。ラストの覚醒シーンや、キャシーが盲目となり車椅子に座る姿に原作への敬意を感じたファンも少なくありません。
SSUにおける位置づけと今後の展望
『マダム・ウェブ』は、SSUの作品として『ヴェノム』(2018年)、『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021年)、『モービウス』(2022年)に続く第4弾です。しかし、これまでの作品がスパイダーマンとの繋がりを匂わせつつも独立した物語として成立していたのに対し、本作はSSUとしての広がりや伏線をほとんど示さず、孤立した印象を与えました。少女たちがスパイダーウーマンになる未来がほのめかされたものの、続編への明確な布石がないまま終わったことで、シリーズとしての方向性に疑問符が付いています。
ソニー側は今後、『クレイヴン・ザ・ハンター』(2024年公開)などでSSUを拡大する計画ですが、『マダム・ウェブ』の失敗を受けて、さらなる戦略の見直しが求められるでしょう。一部ファンの間では、「スパイダーマンを明確に登場させない限り、SSUは苦戦を続けるのでは」との声も上がっています。
個人的な感想と総括
私自身、『マダム・ウェブ』を観た感想としては、「期待していたものとは違ったが、完全に否定するほどでもない」という複雑な気持ちです。確かにミステリーやサスペンスとしての深みは不足しており、アクション映画としても物足りなさを感じました。しかし、キャシーと少女たちの関係性や、孤独な主人公が責任を受け入れる過程には心を動かされる瞬間があり、静かなヒーロー物語として見れば悪くない作品だと思いました。
この映画の最大の問題は、「マーベル映画」というブランドに対する観客の期待と、実際の作品内容のギャップにあるのではないでしょうか。派手なアクションや壮大な世界観を求めるファンには物足りなく、逆にサスペンスや人間ドラマを楽しみたい層には宣伝が届かなかった。結果として、中途半端な立ち位置になってしまった感が否めません。
それでも、『マダム・ウェブ』はマーベル映画の新たな可能性を模索した挑戦作として、記憶に残る作品です。もし続編が作られるなら、キャシーの成長や少女たちの覚醒を丁寧に描いてほしいと願いますし、SSU全体としてのストーリーがもっと明確になることを期待したいです。
結論
『マダム・ウェブ』は、マーベル映画の枠を超えた挑戦を試みたものの、その意図が観客に十分に伝わらず、評価が分かれる結果となった作品です。豪華キャストとユニークなコンセプトを持ちながらも、脚本や演出の詰めの甘さが足を引っ張ったと言えるでしょう。それでも、異なる視点からヒーロー像を描こうとしたその姿勢は評価に値します。あなたがこの映画を観るなら、派手さを期待せず、静かなドラマとして楽しむ心構えで臨むのがおすすめです。2024年2月23日の公開から1年が経とうとする今、改めてこの作品を見直してみるのも面白いかもしれません。
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