2020年9月、第77回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門銀獅子賞を黒沢清監督作『スパイの妻』が受賞しました。
過去の同映画祭での日本映画受賞作は2003年北野武監督『座頭市』で銀獅子賞、1997年『HANA-BI』で金獅子賞、1989年熊井啓監督『千利休 本覚坊遺文』で銀獅子賞、1958年稲垣浩監督『無法松の一生』で金獅子賞、1954年黒澤明監督『七人の侍』、溝口健二監督『山椒大夫』で銀獅子賞、さらに遡ると、1953年溝口健二監督『雨月物語』で銀獅子賞、1951年黒澤明監督『羅生門』がで金獅子賞を受賞しています。
この受賞作品の中で『羅生門』と『雨月物語』はかつて京都太秦にあった大映京都撮影所で製作されています。
かつて京都太秦にあった、という表現をしているのは、現在は存在していないからです。
残念ながら大映京都撮影所は1986年(昭和61年)に閉鎖し、撮影所があった場所は住宅地になっています。
それでは大映京都撮影所で製作された3つの時代劇作品を紹介していきましょう。
黒澤明監督作『羅生門』1950年
羅生門 デジタル完全版
黒澤明1950年監督作。モノクロ映像。三船敏郎、京マチ子、森雅之らが出演しており、芥川龍之介の『藪の中』『羅生門』を原作とした作品です。
舞台は平安時代。森雅之演じる武士の殺害事件を元に目撃者や関係者がそれぞれ食い違った証言をする姿をそれぞれの視点から描き、人間のエゴを鋭く追及しています。
サイレント映画の美しさを意識した視覚的映像表現が特徴で、光と影の強いコントラスト映像、太陽に直接カメラを向けるという斬新な撮影テクニックによる映像美が見どころです。
本作は第12回ヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞のほかに第24回アカデミー賞名誉賞も受賞しています。
溝口健二監督作『雨月物語』1953年
雨月物語
溝口健二1953年監督作。モノクロ映像。森雅之、京マチ子出演。
原作は上田秋成『雨月物語』の「浅茅が宿」と「蛇性の婬」の2編とモーパッサンの『勲章』。
戦国時代が舞台となっており、戦乱の中で蠢く人間の欲望を巧みに表現した作品です。ラストシーンでの欲望の果てに妻を失ってしまった男の哀れな姿が印象的です。
衣笠貞之助監督作『地獄門』1954年
地獄門
衣笠貞之助1954年監督作。長谷川一夫、京マチ子 出演。日本初のイーストマンカラー映像で撮影されおり、大映にとっても初の総天然色作品になっています。
原作は菊池寛の戯曲『袈裟の良人』。
平安時代の色彩の再現に努めた作品であり、カンヌ国際映画祭で審査委員長を務めたジャン・コクトーが「これこそ美の到達点」と本作を絶賛したそうです。
第7回カンヌ国際映画祭グランプリ、第27回アカデミー賞名誉賞及び衣裳デザイン賞を受賞しています。
2011年当時の色彩を復元した初のデジタル・リマスター版が制作され、同年5月2日にNHK BSプレミアムで放映されました。僕が鑑賞した映像も本放送で録画ダビングしていたものです。
以上、大映京都撮影所で製作された3つの作品を紹介しましたが、共通しているのは当時の撮影技術の素晴らしさであり、映像美により世界的映画祭の舞台で大きな評価を受けたことです。
3つの作品の出演した京マチ子
3つの作品に重要な役柄で出演しているのが京マチ子。
残念ながら2019年5月12日に95歳でお亡くなりになりました。
1949年(昭和24年)に25歳で大映に入社後、1984年までに数々の作品に出演しています。テレビドラマにも多数出演しており、僕の記憶の中では『犬神家の一族』『必殺仕舞人』、NHK大河『花の乱』『元禄繚乱』など。
2019年に旧大映作品を管理するKADOKAWA主催で『京マチ子映画祭』が開催されました。
現在の京都太秦界隈の様子
現在、京都太秦には東映京都撮影所と松竹京都撮影所の2つの撮影所があります。
2つの撮影所では現在でも映画、テレビドラマの製作が行われ、東映京都撮影所では『無限の住人』(2017年)、『銀魂』(2017年)、『男たちの大和/YAMATO』(2005年)、『大奥』(2006年)、
テレビドラマでは2時間サスペンス物や『科捜研の女』シリーズなど時代劇だけでなく、現代劇も多く製作されています。
松竹京都撮影所では『引っ越し大名!』(2020年)、『居眠り磐音』(2019年)、『決算!忠臣蔵』(2019年)、『超高速!参勤交代』(2014年)などの娯楽時代劇作品、第26回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞の『たそがれ清兵衛』も製作されています。
テレビドラマではNHK制作の『銀二貫』『雲切仁左衛門』シリーズ、『子連れ信兵衛』など。
太秦については別の記事で紹介しています。ぜひご拝読ください。
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