U-NEXTで「日本誕生」が2025年3月1日より配信が開始されました。以前から観たかった作品でしたので、早々鑑賞しました。今回は「日本誕生」の概要と見どころを紹介させていただきます。
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概要:映画「日本誕生」とは
「日本誕生」は、1959年(昭和34年)11月1日に公開された日本映画で、東宝が製作・配給を手がけたカラー作品です。上映時間は約181分と長尺で、東宝スコープというワイドスクリーン技術を用いて撮影されました。監督は稲垣浩、主演は三船敏郎、そして特技監督として円谷英二が参加し、音楽は伊福部昭が担当するなど、当時の東宝を代表する豪華スタッフとキャストが集結しました。この映画は東宝映画1000本目の記念作品として位置付けられ、創立25周年を祝う大作としても注目されました。
物語は、日本最古の歴史書である『古事記』や『日本書紀』に記された日本創世の神話を基にしています。中心となるのは、日本武尊(ヤマトタケル)こと小椎命(オウシノミコト)の波乱に満ちた生涯ですが、それに並行して太古の神々のエピソードが挿入される二重構造が特徴です。具体的には、イザナギとイザナミによる国産み、天照大御神の天岩戸伝説、須佐之男命(スサノオノミコト)とヤマタノオロチの戦い、そしてヤマトタケルの熊曽(クマソ)討伐や東国征伐などが描かれます。これらの神話的要素を現代的な人間ドラマとして再解釈し、視覚的なスペクタクルとともに観客に届けています。
キャストも非常に豪華で、三船敏郎がヤマトタケルを演じるほか、上原美佐、原節子、司葉子、水野久美、鶴田浩二といった当時のスター俳優が勢揃い。さらに、手力男命(タヂカラオノミコト)役として現役横綱の朝汐太郎が出演し話題に。また、国産みの場面で登場するイザナギとイザナミは一般公募で選ばれた俳優が演じるなど、ユニークなキャスティングも見どころの一つです。東宝オールスター映画としての魅力が詰まった作品と言えるでしょう。
制作背景と意義
「日本誕生」は、東宝がその歴史の中で培ってきた映画製作の技術と人材を総動員して作られた作品です。1950年代は日本映画の黄金時代とも呼ばれ、東宝は黒澤明監督の『七人の侍』(1954年)や『ゴジラ』(1954年)など、数々の名作を生み出していました。そんな中で迎えた1000本目の節目にふさわしい作品として、神話という壮大な題材が選ばれました。監督の稲垣浩は、神話を単なる伝説として描くのではなく、血の通った人間ドラマとして表現することを目指したと語っています。このアプローチにより、古代の神々や英雄に現代的な感情が付与され、観客が共感しやすい物語に仕上がっています。
また、特技監督として参加した円谷英二の手腕も見逃せません。円谷は『ゴジラ』で培った特撮技術を駆使し、ヤマタノオロチや火山の爆発、洪水といったダイナミックなシーンを映像化しました。特に、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)は後に『キングギドラ』のデザインに影響を与えたと言われるほど印象的な造形で、特撮ファンにとっても重要な作品となっています。音楽を担当した伊福部昭の荘厳なスコアも、映画の神聖な雰囲気を高める要素として欠かせません。
ストーリーの流れと主要エピソード
映画は大きく二つの軸で展開されます。一つは神々の世界、もう一つはヤマトタケルの人間的な物語です。ここでは主要なエピソードを簡単に紹介します。
- 国産みと神々の物語
冒頭では、イザナギとイザナミが日本の国土を生み出す場面から始まります。この幻想的なシーンは、観客に太古の日本を想像させる入り口として機能します。その後、天照大御神が天岩戸に隠れるエピソードが登場。神々が協力して岩戸を開ける場面では、朝汐太郎演じる手力男命が力強く岩を動かす姿が印象的です。また、須佐之男命がヤマタノオロチと対決するシーンは、映画のハイライトの一つ。八つの頭を持つ巨大な蛇との戦いは、円谷英二の特撮技術が存分に発揮された迫力ある場面です。 - ヤマトタケルの生涯
物語の中心は、景行天皇の時代に生きる小椎命、すなわちヤマトタケルです。彼は気性が荒々しいが正義感の強い若者として描かれ、父である天皇や重臣の大伴建日連(鶴田浩二)との確執が物語を動かします。大伴はヤマトタケルを皇位継承から遠ざけるため、難敵である西の熊曽討伐を命じますが、ヤマトタケルはこれを見事に成し遂げます。さらに東国征伐にも挑み、その過程で愛する妻オトタチバナヒメ(上原美佐)との別れや、数々の試練を経験します。クライマックスでは、火山の爆発と洪水の中での壮絶な戦いが描かれ、英雄としての運命が完結します。
見どころ:この映画の魅力とは
「日本誕生」の見どころは多岐にわたります。ここでは、特に注目すべきポイントをいくつか挙げてみましょう。
- 豪華キャストによる人間ドラマ
三船敏郎のヤマトタケルは、荒々しさと優しさを併せ持つ魅力的なキャラクターです。彼の存在感が映画全体を牽引し、特に戦闘シーンや妻との別れの場面では感情的な演技が光ります。また、鶴田浩二演じる大伴建日連との対立は、権力と正義のぶつかり合いとして緊張感を生み出しています。さらに、原節子や司葉子といった女優陣が、物語に情感と深みを加えています。東宝オールスターの共演は、当時の映画ファンを大いに沸かせたことでしょう。 - 円谷英二の特撮技術
特撮ファンにとって、「日本誕生」は円谷英二の技術力が堪能できる作品です。ヤマタノオロチの戦いは、巨大な模型とミニチュアを組み合わせた撮影で、当時の技術としては驚異的なクオリティを誇ります。また、火山の噴火や洪水のシーンでは、自然の脅威がリアルに再現されており、観客に圧倒的な臨場感を与えます。これらの特撮は、後の東宝特撮映画に大きな影響を与えたと言われています。 - 神話と現実の融合
稲垣浩監督の意図通り、神話的な要素に人間らしい喜怒哀楽が織り込まれている点がユニークです。例えば、ヤマトタケルの戦いは単なる英雄譚ではなく、家族や愛する人との関係性が丁寧に描かれています。この現代的なアプローチにより、古代の物語が身近なものとして感じられるのです。また、神々のエピソードも視覚的な美しさとともに、ユーモアやドラマが加えられており、単なる伝説を超えたエンターテインメントに仕上がっています。 - 伊福部昭の音楽
伊福部昭の音楽は、映画の壮大さを一層引き立てます。神聖なメロディと迫力あるオーケストラが、神話の世界観を見事に表現。特にヤマタノオロチ戦や火山の爆発シーンでは、音楽と映像が一体となって観客を圧倒します。伊福部のスコアは、後に『ゴジラ』シリーズでもその才能が発揮されることになりますが、本作でもその片鱗が感じられます。
現代から見た「日本誕生」の意義
公開から60年以上が経過した今、「日本誕生」はどのような価値を持つのでしょうか。まず、日本神話を映像化した先駆的作品として、歴史的な意義が大きいです。当時はテレビも普及し始めた時代であり、映画館でしか味わえないスケールの大きな映像体験が求められていました。この映画はまさにその期待に応え、日本のルーツを視覚的に伝える役割を果たしました。
一方で、現代の視点から見ると、テンポの遅さや長尺が気になる部分もあります。181分という上映時間は、当時の観客にとっては特別なイベントだったかもしれませんが、現代の視聴習慣に慣れた人には少し冗長に感じられるかもしれません。しかし、そのゆったりとした展開だからこそ、各シーンの細部まで丁寧に描かれており、当時の映画製作の情熱が伝わってきます。
また、特撮技術の進化を考えると、ヤマタノオロチや洪水のシーンは現代のCGに比べるとシンプルに映るかもしれません。それでも、手作業で作られたミニチュアや模型の質感には独特の魅力があり、アナログな特撮の温かみが感じられます。現在の映画ファンにとっても、特撮史の一端を知る貴重な資料と言えるでしょう。
「日本誕生」を楽しむためのポイント
この映画を最大限に楽しむには、いくつかの視点を持つと良いかもしれません。まず、日本神話の入門編として観ることをおすすめします。『古事記』や『日本書紀』のエピソードが映像化されているため、原典を読む前に概要を把握するのに最適です。特に、登場人物の名前が覚えにくいと感じる人には、映像を通じて情景とともに記憶に残るでしょう。
次に、1950年代の日本映画の技術と文化を味わうつもりで鑑賞すると、その時代背景がより深く理解できます。当時のスター俳優や特撮技術、音楽が一体となった豪華さは、今では再現が難しい貴重な体験です。また、家族や友人と一緒に観て、神話について語り合うのも楽しいかもしれません。
まとめ:時代を超えるスペクタクル映画
「日本誕生」は、東宝1000本目の記念碑的作品として、日本神話を壮大に描いたスペクタクル映画です。豪華キャスト、円谷英二の特撮、伊福部昭の音楽、そして稲垣浩の人間ドラマが融合した本作は、当時の映画製作の頂点を象徴しています。現代から見るとやや古風な部分もありますが、そのスケール感と情熱は今なお色褪せません。日本人のルーツを感じたい人、特撮史に興味がある人、そしてクラシックな映画を愛する人にとって、見逃せない一本です。ぜひ一度、時間を取ってこの壮大な世界に浸ってみてください。
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