1971年に公開された映画「レッド・サン」(原題:Red Sun)は、西部劇と異文化の融合が魅力の異色作です。この映画の最大の特徴は、当時の世界三大スターである日本の三船敏郎、アメリカのチャールズ・ブロンソン、フランスのアラン・ドロンが共演している点にあります。監督はテレンス・ヤング、主演3人の個性がぶつかり合う中、日本刀とガンマンが交錯するユニークな物語が展開されます。今回は、この名作の魅力と、3人の俳優のキャリアや演技について深掘りしてみましょう。
三船敏郎:日本が誇るサムライ俳優

三船敏郎(1920-1997)は、日本映画史に燦然と輝く国際的スターです。中国・青島で生まれ、第二次世界大戦中は軍務に就いた後、東宝に入社し俳優の道へ進みました。彼の名を一躍有名にしたのは、黒澤明監督とのコラボレーションです。1948年の「酔いどれ天使」で映画デビューを果たし、1950年の「羅生門」でカンヌ国際映画祭最高賞を受賞。以降、「七人の侍」(1954年)や「用心棒」(1961年)などで、力強くも人間味あふれるサムライ像を確立しました。
三船の魅力は、その圧倒的な存在感と身体能力にあります。鋭い眼光、野太い声、そして流れるような剣さばきは、まさに「動く彫刻」とも称されるほど。ハリウッドでも「グラン・プリ」(1965年)や「ヘル・イン・ザ・パシフィック」(「太平洋の地獄」)(1968年)に出演し、国際的な評価を獲得しました。「レッド・サン」では、侍のクロベエ役を演じ、西洋の荒野に日本的な武士道精神を持ち込みます。言葉少なく、静かな威厳を湛えた三船の演技は、映画に深い味わいを加えています。
チャールズ・ブロンソン:無骨なアメリカのヒーロー

チャールズ・ブロンソン(1921-2003)は、アメリカ映画界でタフな男の代名詞として知られる俳優です。リトアニア移民の貧しい炭鉱労働者の家庭に生まれ、過酷な幼少期を過ごしました。第二次世界大戦では空軍に従軍し、その後俳優を志して演技を学び始めます。初期は端役が多かったものの、「荒野の七人」(1960年)で注目を集め、「大脱走」(1963年)で一気にスターダムにのし上がりました。
ブロンソンの特徴は、彫りの深い顔立ちと寡黙なスタイルです。感情をあまり表に出さず、動作や目線で語るその演技は、観る者に強い印象を残します。1970年代には「狼よさらば」(1974年)などのバイオレンス映画で人気を博し、アクションスターとしての地位を確立。「レッド・サン」では、無法者のリンク・スチュアート役を演じ、三船との対立と共闘を見事に描き出します。ブロンソンの粗野で現実的なキャラクターは、三船の侍と対照的でありながら、奇妙な調和を生み出しています。
アラン・ドロン:フランスの美しきアウトロー

アラン・ドロン(1935-)は、フランスが誇る美男俳優であり、ヨーロッパ映画界のアイコンです。パリ郊外で生まれ、少年時代は不良として過ごし、軍隊経験を経て俳優の道に進みました。1957年に映画デビューし、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「若者のすべて」(1960年)やルネ・クレマン監督の「太陽がいっぱい」(1960年)で世界的な名声を得ました。冷たく鋭い美貌と、内面の脆さを併せ持つ演技で、女性ファンを虜にしただけでなく、批評家からも高い評価を受けました。
ドロンの魅力は、そのエレガントさとミステリアスな雰囲気です。アクションからロマンスまで幅広い役柄をこなし、特にアウトローや孤独な男を演じさせれば右に出る者はいません。「レッド・サン」では、冷酷なギャングのゴーシュ役を演じ、三船とブロンソンに敵対する存在として物語に緊張感をもたらします。ドロンの洗練された佇まいは、西部劇の荒々しさの中で異彩を放ち、映画に国際的な色合いを加えました。
「レッド・サン」のストーリーと見どころ
「レッド・サン」の舞台は、19世紀のアメリカ西部。列車強盗を企てたリンク(ブロンソン)とゴーシュ(ドロン)は、日本の大使が携えていた天皇からの贈り物である黄金の刀を奪います。しかし、ゴーシュの裏切りによりリンクは置き去りにされ、刀を守る侍クロベエ(三船)と手を組むことに。7日以内に刀を取り戻さなければ切腹を強いられるクロベエと、金と復讐を求めるリンクは、対立しながらもゴーシュを追う旅に出ます。
この映画の見どころは、東西文化の衝突と融合です。三船演じるクロベエの武士道精神と、ブロンソン演じるリンクの現実的な生き方が交錯し、互いに影響を与え合う姿が描かれます。例えば、クロベエが侍の誇りを貫く一方で、リンクは「生き延びること」が全てと割り切る。この価値観の違いが、二人の掛け合いをユーモラスかつ感動的に仕立てています。また、ドロン演じるゴーシュの冷酷さが物語にスパイスを加え、三つ巴の緊張感を高めています。
アクションシーンも見逃せません。三船の日本刀とブロンソンの銃が絡み合う戦闘は、西部劇に新たな風を吹き込みました。特にクライマックスの対決では、三人の個性が存分に発揮され、観客を圧倒します。さらに、荒涼としたアメリカの風景とモーリス・ジャールの音楽が、映画に壮大な雰囲気を添えています。
国際的コラボレーションの意義
「レッド・サン」は、日米仏の合作映画として、当時の映画界における国際的な実験でもありました。西部劇というアメリカ発祥のジャンルに、日本とフランスのスターを起用することで、単なる娯楽を超えた文化的対話を試みたのです。監督のテレンス・ヤングは、「007」シリーズで知られる手腕を活かし、多国籍キャストを見事にまとめ上げました。
三船、ブロンソン、ドロンは、それぞれの国の映画史を代表する俳優であり、彼らが一つのスクリーンに集結したことは、まさに奇跡的です。言葉や文化の壁を超え、互いの演技で共鳴し合う姿は、映画のテーマである「異なる者同士の協力」を象徴しています。この映画は、単なる西部劇ではなく、人間ドラマとしても深い余韻を残します。
現代における「レッド・サン」の価値
公開から50年以上経った今でも、「レッド・サン」は多くの映画ファンに愛されています。その理由は、時代を超える普遍的なテーマと、3人の俳優の不朽の魅力にあります。グローバル化が進む現代において、異なる文化が交錯する物語はますます共感を呼びます。また、三船の侍、ブロンソンのガンマン、ドロンのアウトローという組み合わせは、映画史におけるユニークな一ページとして語り継がれています。
もしこの映画をまだ観ていないなら、ぜひチェックしてみてください。三船敏郎の威厳、チャールズ・ブロンソンの無骨さ、アラン・ドロンの美しさが織りなす「レッド・サン」は、西部劇の枠を超えた傑作です。3人のスターが放つ光芒は、今なお色褪せることなく輝き続けています。
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