死と向き合うことは、人生において避けられないテーマです。映画「みとりし」「おみおくり」「おくりびと」は、それぞれ異なる視点から「死」と「送る」ことの意味を描き、観る者に深い感動と人生への気づきを与えてくれる作品です。本記事では、これら3つの映画の内容と見どころを詳しく紹介し、なぜこれらの作品が心に響くのかを探っていきます。
1. 「みとりし」：看取り士の温かい寄り添い
内容
「みとりし」（2019年公開、監督：白羽弥仁）は、日本看取り士会の柴田久美子会長の実話に基づいたヒューマンドラマです。主人公・柴久生（榎木孝明）は、交通事故で娘を亡くし、自ら命を絶とうとした過去を持つ男性です。絶望の淵で「看取り士」という職業に出会い、岡山で看取り士として新たな人生を歩み始めます。看取り士とは、亡くなる人の最期に寄り添い、その人らしい死を迎えられるようサポートする職業です。映画は、柴久生がさまざまな人々の最期を見守りながら、彼自身の心の傷とも向き合っていく姿を描きます。
物語は、看取り士として働く柴久生が、さまざまな人生背景を持つ人々と出会い、彼らの希望や不安に寄り添うエピソードを中心に展開します。たとえば、余命わずかな老女や家族との関係に悩む男性など、一人ひとりの物語が丁寧に描かれ、死を迎える人々の尊厳と人生の重みが伝わってきます。自然豊かな岡山の風景や、ゆったりと流れる時間が、物語に深い情感を添えています。
見どころ
- 看取り士という職業の深さ：日本ではまだ馴染みの薄い「看取り士」という職業に光を当て、死をタブー視せず、温かく見送ることの大切さを教えてくれます。看取り士がどのように亡魂と家族の心をつなぐのか、その繊細なプロセスに心を動かされます。
- 人間ドラマの繊細な描写：登場人物一人ひとりの人生模様が丁寧に描かれ、観客は彼らの喜びや悲しみに共感します。特に、主人公が自身の喪失感と向き合いながら成長する姿は、観る者の心に響きます。
- 自然美と静かなテンポ：岡山の美しい自然が背景に映し出され、ゆったりとした時間の流れが死と向き合う心の準備を促します。この静謐な雰囲気は、観客に内省の時間を与えてくれるでしょう。
- 実話に基づくリアリティ：日本看取り士会の柴田会長の実体験が基になっており、フィクションでありながらも現実の重みが感じられます。
こんな人におすすめ
死を身近に感じる人、人生の終末期について考えたい人、または心温まるヒューマンドラマを求める人にぴったりの作品です。看取り士の視点から、死を恐れるのではなく、尊厳ある最期を迎えることの意味を考えるきっかけになります。
2. 「おみおくり」：女納棺師の葛藤と成長
内容
「おみおくり」（2018年公開、監督：伊藤秀裕）は、納棺師として働く女性・友子（高島礼子）を主人公にした作品です。納棺師とは、亡魂を清め、化粧を施し、棺に納める職業で、映画「おくりびと」と似たテーマを扱っています。友子は、納棺師としての誇りを持ちながらも、世間の偏見や家族とのすれ違いに悩みます。物語は、彼女がさまざまな亡魂やその家族と関わる中で、自身の人生を見つめ直し、納棺師としての使命を再確認していく過程を描きます。
映画には、友子が手掛ける数々の葬儀のエピソードが登場します。たとえば、若くして亡くなった女性や、家族とのわだかまりを抱えたまま逝った男性など、さまざまな人生が交錯します。友子の丁寧な所作と心遣いが、遺族の心を癒し、亡魂に尊厳を与える様子が感動的です。しかし、ストーリーにはやや冗長な部分や、台詞の多さが気になる点もあるとされています。
見どころ
- 女性納棺師の視点：男性が主役だった「おくりびと」と異なり、女性納棺師の視点から描かれる点が新鮮です。高島礼子の落ち着いた演技が、納棺師の仕事の尊さを際立たせます。
- 納棺の美しさ：納棺師の丁寧な所作や、亡魂を美しく送り出すプロセスが詳細に描かれ、職人技の美しさが感じられます。死を清らかに扱う姿勢に心を奪われます。
- 人間関係の葛藤：友子が家族や周囲との関係で葛藤する姿は、仕事とプライベートの両立に悩む現代人に共感を呼びます。納棺師という仕事を通じて、彼女が自分自身と向き合う姿が感動的です。
- 泣けるエピソード：複数の葬儀エピソードが織り交ぜられ、涙を誘う場面も多く含まれます。遺族の感情や亡魂への想いが丁寧に描かれ、観客の心を打ちます。
こんな人におすすめ
納棺師の仕事に興味がある人、女性の視点から描かれる職業ドラマを観たい人、または感動的な物語を求める人に最適です。ただし、ストーリーのテンポがややゆっくりめなので、じっくりと感情に浸りたいときに観るのがおすすめです。
3. 「おくりびと」：納棺師の美と人生の再生
内容
「おくりびと」（2008年公開、監督：滝田洋二郎）は、第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した名作です。主人公・小林大悟（本木雅弘）は、楽団の解散を機に故郷の山形に戻り、求人広告を通じて納棺師の仕事に就きます。当初は死を扱う仕事に抵抗を感じながらも、さまざまな亡魂や遺族と向き合う中で、納棺師としての誇りと人生の意味を見出していきます。妻・美香（広末涼子）や同僚たちとの関係を通じて、大悟自身の過去や家族との絆も描かれます。
映画は、納棺の儀式を通じて亡魂と遺族の心をつなぐ大悟の姿を中心に、死と生の美しさを描きます。山形の美しい自然や、久石譲の心揺さぶる音楽が、物語に深い情感を添えています。原作は青木新門の『納棺夫日記』で、納棺師のリアルな視点が作品に厚みを加えています。
見どころ
- 納棺の儀式の美しさ：納棺師の丁寧な所作や姿勢が美しく描かれ、死を穢れたものではなく、尊厳あるものとして扱う姿勢が感動を呼びます。
- 久石譲の音楽：映画の情感を高める久石譲の音楽は、シーンごとに心を揺さぶります。特にチェロの音色が、大悟の内面的な成長を象徴します。
- ストーリーの完成度：無駄のない構成とハッピーエンドが、観客に希望と癒しを与えます。大悟が納棺師として成長する過程は、人生の再生を象徴し、観る者の心に響きます。
- 山形の自然美：山形の雪景色や鳥海山の風景が、物語に静かな深みを加えます。特に、大悟がチェロを弾くシーンは、視覚的にも感動的です。
- 本木雅弘の演技：本木雅弘の繊細な演技が、大悟の葛藤と成長をリアルに表現し、観客を引き込みます。広末涼子や山崎努など、脇を固める俳優陣も素晴らしいです。
こんな人におすすめ
死と生の意味を考える映画を観たい人、芸術性の高い日本映画を求める人、または心を揺さぶる音楽と映像美を楽しみたい人に強くおすすめです。アカデミー賞受賞作だけあって、幅広い層に訴えかける普遍的なテーマが魅力です。
3つの映画の共通点と違い
共通点
- 死と向き合うテーマ：3作品とも、死をタブー視せず、尊厳を持って送り出す職業（看取り士や納棺師）に焦点を当てています。死を通じて生の尊さを描く点が共通しています。
- 人間ドラマの深さ：亡魂や遺族のエピソードを通じて、人生の多様性や家族の絆が描かれ、観客に深い感動を与えます。
- 日本の美意識：日本の自然美や丁寧な所作が、どの作品にも共通して映し出され、視覚的な美しさが際立ちます。
違い
- 職業の違い：「みとりし」は看取り士が死の直前まで寄り添う姿を描き、「おみおくり」「おくりびと」は納棺師が死後の儀式を扱います。看取り士は生前の心のケアに重点を置き、納棺師は死後の尊厳を重視します。
- 視点の違い：「おみおくり」は女性納棺師の視点が特徴的で、家族との葛藤が強調されます。一方、「おくりびと」は男性の成長物語として、職業を通じた人生の再生が中心です。「みとりし」は実話に基づくヒューマンドラマとして、より現実的な視点が強いです。
- テンポと雰囲気：「おくりびと」は洗練された構成と音楽で、映画としての完成度が高いです。「みとりし」はゆったりとしたテンポで内省的、「おみおくり」はやや冗長ながらも感情的なエピソードが印象的です。
なぜこれらの映画は心に響くのか？
これらの映画は、死という普遍的なテーマを通じて、人生の意味や家族の絆、個々の尊厳を考える機会を提供します。現代社会では、死はとかく避けられがちなテーマですが、これらの作品は死を穢れたものではなく、美しく尊いものとして描きます。看取り士や納棺師という職業を通じて、亡魂や遺族の心に寄り添う姿は、観客に「生きること」や「大切な人を送ること」の大切さを教えてくれます。
また、日本の美しい自然や文化が背景に描かれることで、視覚的にも心を癒されます。特に「みとりし」の岡山の風景や「おくりびと」の山形の雪景色は、物語の情感を一層深め、観客に静かな感動を与えます。
まとめ：どの映画から観るべき？
- 初めて死をテーマにした映画を観るなら：「おくりびと」がおすすめ。ストーリーの完成度、音楽、映像美、演技のどれもが高水準で、初心者でも感情に浸りやすいです。
- 女性の視点や納棺師の日常に興味があるなら：「おみおくり」が良い選択。女性納棺師の葛藤と成長が、共感を呼びます。
- 実話に基づくヒューマンドラマを求めるなら：「みとりし」が最適。看取り士という職業の深さを知り、人生の最期について考えたい人にぴったりです。
どの作品も、死と向き合うことで生の尊さを教えてくれる珠玉の映画です。ぜひ、静かな夜にじっくりと鑑賞して、心に残るメッセージを受け取ってみてください。
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