2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』もあと残り僅か。横浜流星さんが演じた江戸のメディア王・蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう/通称:蔦重)の生涯に魅了された人も多いでしょう。
これまでの大河ドラマといえば、戦国武将や幕末の志士が主役となることが常でしたが、今回は「町人」であり「編集者・プロデューサー」が主役。喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎といった天才たちを世に送り出した蔦重の物語は、まさに「江戸のエンターテインメント・ビジネスドラマ」になりましたね。
そこで今回は、ドラマの放送開始を待ちきれない方のために、蔦重や彼を取り巻く浮世絵師たちが登場する傑作邦画3作品――『HOKUSAI』『北斎漫画』『写楽』――を徹底解説します。
これらを観ておくことで、当時の空気感、幕府との攻防、そしてクリエイターたちの業(ごう)を肌で感じ、大河ドラマ『べらぼう』の世界観を何倍も深く懐かしめることでしょう。
1. 新時代の映像美で描く師弟の絆
『HOKUSAI』(2021年)
まず最初にご紹介するのは、葛飾北斎の生涯を描いた『HOKUSAI』です。この映画は、大河ドラマ『べらぼう』への最高の導入剤となるでしょう。なぜなら、阿部寛さんが演じる「蔦屋重三郎」が、若き日の北斎を導く重要なキーマンとして登場するからです。
作品の概要
- 監督: 橋本一
- 出演: 柳楽優弥(青年期北斎)、田中泯(老年期北斎)、阿部寛(蔦屋重三郎)、瑛太(柳亭種彦)、玉木宏(喜多川歌麿)ほか
『べらぼう』的見どころ:理想のプロデューサー・蔦重
この映画の蔦重は、とにかくカッコいい。「絵を描く意味」を見失い、くすぶっていた若き北斎(柳楽優弥)の才能を見抜き、厳しくも温かく導く姿は、まさに「理想の上司」「敏腕プロデューサー」そのものです。
大河ドラマで横浜流星さんが演じる蔦重も、おそらくこうした「人たらし」であり、クリエイターの魂に火をつける情熱的な人物として描かれることでしょう。阿部寛さんの重厚な演技を通して、「なぜ蔦重のもとに天才たちが集まったのか?」という問いの答えを、肌感覚で理解することができます。
また、本作は「波」の映像表現や、北斎ブルー(ベロ藍)へのこだわりなど、ビジュアルが非常に現代的でスタイリッシュ。江戸の町並みも美しく、大河ドラマで描かれるであろう「華やかな江戸」の予習としても最適です。
ここに注目!
歌麿(玉木宏)と写楽(浦上晟周)も登場し、蔦重ファミリーの「チーム感」と、互いに切磋琢磨(あるいは嫉妬)するライバル関係が描かれています。これは間違いなく『べらぼう』の主軸となる人間関係です。

2. 混沌とエロス、芸術家の狂気を覗く
『北斎漫画』(1981年)
次にご紹介するのは、名匠・新藤兼人監督による『北斎漫画』。こちらは少し玄人好みの作品ですが、江戸の文化が持つ「猥雑(わいざつ)なエネルギー」を感じるには、これ以上の映画はありません。
作品の概要
- 監督: 新藤兼人
- 出演: 緒形拳(鉄蔵=北斎)、西田敏行(左七=曲亭馬琴)、田中裕子(お栄=北斎の娘)、樋口可南子(お直)、フランキー堺(中島伊勢)ほか
『べらぼう』的見どころ:クリエイターたちの「業」と「生活」
『べらぼう』というタイトルには、「馬鹿者」という意味のほかに、「普通ではない」「とてつもない」といったニュアンスが含まれています。この映画に出てくる北斎(緒形拳)や馬琴(西田敏行)は、まさに「べらぼう」な奴らです。
貧乏長屋で薄汚れた布団にくるまりながら、ただひたすらに絵を描き、物語を紡ぐ。そこには綺麗な成功譚だけではない、創作に取り憑かれた人間の狂気と、地を這うような生活があります。
特に注目すべきは、北斎の娘であり、自身も天才絵師であった「お栄(葛飾応為)」を演じる田中裕子さんの妖艶さと強さです。大河ドラマでもおそらく重要なキャラクターとなるお栄。彼女の視点から見た「父・北斎」や「版元の世界」を知ることで、ドラマのキャラクター造形に深みが増すはずです。
この映画には蔦重は直接的には大きく関わりませんが、「蔦重が相手にしていたのは、こういう一筋縄ではいかない天才・奇人たちだったんだな」という、プロデューサーの苦労(と面白さ)を逆説的に感じることができます。

3. 最大のミステリーと出版ビジネスの裏側
『写楽』(1995年)
最後は、カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも出品された大作『写楽』です。この映画は、企画総指揮も務めたフランキー堺さんが、執念で完成させた作品であり、彼自身が蔦屋重三郎を演じています。「出版ビジネス」としての浮世絵を最も色濃く描いているのが本作です。
作品の概要
- 監督: 篠田正浩
- 出演: 真田広之(トンボ=写楽?)、フランキー堺(蔦屋重三郎)、岩下志麻(お蔦)、葉月里緒菜(花里)、片岡鶴太郎(喜多川歌麿)ほか
『べらぼう』的見どころ:蔦重による「メディアミックス戦略」
この映画の最大の面白さは、写楽という謎の絵師を、蔦屋重三郎がいかにして「仕掛けた」かという、プロデュースの側面にスポットが当たっている点です。
劇中では、歌舞伎役者、吉原の花魁、そして版元(出版社)が一体となってブームを作り出す様子が描かれます。これは現代でいう**「メディアミックス」の先駆け**。蔦重がいかにして世間の流行を操作し、幕府の弾圧(寛政の改革)をかいくぐってヒットを飛ばそうとしたか、そのビジネスマンとしての才覚が、フランキー堺さんの飄々とした演技で見事に表現されています。
また、真田広之さんが演じる写楽の正体に関する大胆な解釈もこの映画の見どころ。大道芸人である彼が、蔦重に見出され、使い捨てられていく哀愁。**「消費されるクリエイター」と「消費させるプロデューサー」**という残酷な関係性は、『べらぼう』でも必ず描かれるであろうシリアスなテーマです。
セットの豪華さ、歌舞伎シーンの再現度の高さも圧巻で、まさに大河ドラマ級のスケール感を味わえます。

3作品を通して見えてくる『べらぼう』の世界
これら3作品を観ることで、大河ドラマ『べらぼう』を楽しむための3つの視点が養われます。
① 「寛政の改革」という巨大な敵
どの映画にも影を落としているのが、松平定信による「寛政の改革」です。贅沢の禁止、出版統制、風紀の取り締まり。
自由な表現を求める蔦重たちと、それを抑え込もうとする幕府権力との対立構造は、映画でもドラマでも最大の山場となります。「表現の自由」をかけて戦う蔦重の姿は、現代の私たちにも熱く響くものがあるでしょう。
② 蔦重という「場の提供者」
『HOKUSAI』の阿部寛、『写楽』のフランキー堺。役者は違えど、蔦重に共通しているのは**「才能ある者が輝ける場所(ステージ)を用意する」**という覚悟です。
大河ドラマで横浜流星さんが演じる蔦重が、どのようにして若き才能たちを見出し、育て、そして時には非情な決断を下すのか。映画版の蔦重たちと比較しながら観るのも一興です。
③ 吉原と歌舞伎の絢爛豪華さ
蔦重の原点は吉原にあります。そして浮世絵の題材は歌舞伎役者や遊女たちでした。
映画『写楽』や『北斎漫画』で見られる、むせ返るような色彩や、江戸庶民の熱気。この「視覚的な楽しさ」こそが、当時のエンターテインメントの真髄です。大河ドラマで最新のVFXや美術セットがどうこの世界を再現するのか、期待が高まります。
まとめ:蔦重の夢を追体験するために
2025年の大河ドラマ『べらぼう』は、単なる時代劇ではなく、江戸時代に「ポップカルチャー」という概念を創り出した男たちの熱いビジネスドラマになっていました。
- スタイリッシュに師弟愛を感じたいなら『HOKUSAI』
- 創作の狂気と江戸の体温を感じたいなら『北斎漫画』
- エンタメビジネスの光と影を知りたいなら『写楽』
過去の放送を振り返り、ぜひこれらの作品に触れてみてください。
「べらぼうめ!」と笑い飛ばしながら、命がけで絵を描き、本を売った男たちの生き様が、より鮮やかに、より深く、あなたの胸に迫ってくることでしょう。





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